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俺が手を切った後、あちこちで浮名を 流していたようなのに、なんで今頃また 俺に近付く? なんにせよ、明菜にはもう関わるつもりはない。 俺には奈緒という、大切な存在がいるから。 あいつに余計な心配をさせたくない。 「コーチ、呼びましたか?」 ノックをしながら声を掛けると、ミーティング ルームで、何かの資料を読むヘッドコーチが 顔を上げた。 「おう、亮輔。ちょっと良い情報だ。まあ座れ」 上機嫌のコーチに招き寄せられ、 向かいの席に腰を下ろした。 「すっかり真っ暗だな」 すぐに済ませるつもりだったのに。 コーチの話に意外に時間を取られ、 奈緒の待つ車へ急いだ。 今聞いたばかりの朗報をあいつにしたら、 どんな反応をするだろう? 「あ、亮さん、お帰りなさい」 「おまえ、何やってんだ?」 駐車場のいつもの定位置に着くと、 車内で待っているとはずの奈緒が、 何やら白いものを手に振り返った。 よく見ると、それは掃除用のウェットシートで、 どうやら待っている間に、車の掃除を していたらしい。 「フロントガラスに鳥のフンが付いてて。 そこだけのつもりが、つい他も気になって。 今片付けるね」 説明しながら、慌てて片付け始めた彼女に 呆れながらも、微笑みを隠せない。 「まったく、おまえは。暖かくしてろって 言っただろ」 「だから、ついって言ってるじゃない」 エアコンを聞かせた車内で、手を洗って 戻ってきた奈緒に、お説教を垂れる。 「ほら、手ぇ出せ!」 膝の上でしきりにこすり合わせている手を奪い、 自分の両手で包み込んで息を吹きかけた。 「わ……あったかい……」 「ったく。こんなに冷え切って。 風邪ひくだろ」 「大丈夫だよ、このくらい」 ふんわりとした笑顔を見せる奈緒の表情に、 心が暖かくなる。 認めるのは癪だが、明菜の言った通り、 どちらかというと、俺の好みは美人系だ。 奈緒とは正反対のタイプ。
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