救急車が来た

　最近、やたらと近所で救急車が走り回っている。
　三ヶ月ばかり前に来たのは三軒向うの家に駆け込んでたったけな。
　二月ちょい前のは斜向かい。一月くらい前に来たのはお隣に入り込んでた。そして、ついにウチにも半月前に来た。
　でもその後のご近所話じゃ、不思議なことに、どこの家も救急車を呼んだ覚えはないらしい。
　公の場での事故とかならいざ知らず、個人の家に、勝手に誰かが救急車を呼ぶなんてことがあるんだろうか。
　誰かのいたずらだとしても悪質で、みんな、どこの誰がこんな真似をするんだと怒っていた。
　でも、話はそれでは終わらなかった。最初に救急車がやって来た家のおはあさんが、つい十日前に亡くなったのだ。
　聞いた話じゃ、高齢だし持病もあったようだから、それは寿命がきたんだろうということになったけど、その二日後に、斜め向かいの家の人が水難事故に遭い、命を落とした。そしてついに四日前には、隣の旦那さんが交通事故死した。
　救急車が勝手に来た家に出続ける死人。偶然ならばいいけれど、そこに、もしも何か因果があるとしたら…。
　ウチの家族は、俺と両親、弟と妹の六人。嫌な言い方になるけれど、順当だと思うような高齢者はいない。
　…ウチの犠牲者は誰だ？

救急車が来た…完