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次はロンドンに行くと迎えに来た母親に、カンナは僕たちと日本に残ると告げた。笑顔で、きっぱりと。
その幼い横顔を見ながら、いつか僕が父親を見送った日を思い出す。彼よりもずっと年上だったけど。父親にはこの10年で2、3度会ったきりだが、僕は孤独ではない。僕が生きる毎日はここにあって、小さな喜びで日々は積み上げられている。
母親を見送った後、カンナは両手で僕の頬を包んで囁いた。
「僕ね、純央くんを僕のものにしたいって思ってるよ。」
僕の首元に抱きつくように手を伸ばし、ちゅっと音を立てて頬に柔らかい唇をあてた。
「覚悟して。」
焦っている僕とは反対に薫は笑っている。
「楽しみにしてる。負ける気はしないから。もっと大人になって、誘惑してごらん。」
そう言って、ぴんと人差し指でカンナの小さな鼻を押した。
おかしい!話がおかしくなってる!
「ドーナツ食べに行こう!」
年相応の無邪気さで、僕と薫の手をとり、カンナが言った。
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