1.好きなのは野球だから

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       木ノ本さんがゼミで忙しい時期なのは知っていた。だから在籍中にもかかわらず、ろくにサークルの練習にも出て来られないのだ。  反して俺は、大学生活の中で最も暇と言っていい三年生。仕事に慣れた居酒屋のバイトは夜だけだったし、おかげで毎日時間は有り余っていた。  特に週末ともなればそれは顕著で、試合が入らない限りサークルの練習もなければ、取り立てて他の用事が入ることもない。稀に合コンに誘われることはあっても、そう言う日に限って急な試合に呼ばれたりして、フラストレーションは溜まる一方だった。  たまに仲矢と連絡が取れても、月に一度がいいところ。悲しいかな自分には恋人と呼べる相手もいない。時折入る飲みの約束も当然ながら夜が多く、そうなると今度はバイトとダブってしまう。  かと言って、昼間のバイトを探す気にもなれないのは、折角の学生生活をできればもっと楽しみたいという気持ちも捨てきれないからだろうか。  ああ、今更に思い知る。俺は本当に仲矢と一緒にいないと独りが多い。なんて寂しい日常だ。特に他の友人を疎かにしていたつもりもないのに――。  そんな心境が反映したのか、今朝は妙な夢を見た。誰かとキスをする夢だ。それも軽いとは言えない、どちらかと言えばかなり濃厚な……。  相手の姿はほとんど記憶に残っていない。昔の彼女だったのかもしれないし、一番最近遊んだ女の子だったのかもしれない。ただ、そう思うには相手の身長が高かったような……?  まぁどちらにしても、十代の盛りじゃあるまいし、多少の欲求不満程度でそんな夢を見るなんて微妙すぎる。  そう思いながらも、結局懲りずに布団に潜った。  だって今日は学校もバイトも無い。それをいいことにその後も惰眠をむさぼって、そうして次に目を覚ました頃にはとっくに昼を回っていた。
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