1.好きなのは野球だから

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「……野球やりてぇなぁ」  二度目の眠りから覚める間際、俺はまた夢を見ていた。今度は高校時代、野球部の試合中にホームランを打った時の夢だった。  俺はその余韻に浸るように呟いて、目が覚めてからも暫くは見慣れた天井をただぼんやりと眺めていた。 「――…」  と、そこからふとあることを思い出す。思い出したのは過日に木ノ本さんが告げた言葉。 「社会人チームか……」  更に呟きを重ねると、俺はのろのろと身体を起こした。  ベッドから降りて伸びを一つし、部屋の中央に置かれたこたつ兼用のローテーブルへと目を向ける。そこに投げてあった携帯を手に取って、既読メールの一通を開いた。 『あの話、冗談じゃないから。気が向いたら連絡して。ちゃんと紹介するよ』  正直このメールを貰うまで、ずっと半信半疑だった。冗談ならまともに返事をするのもどうかと思ったし、だからと言ってやめるつもりでいた野球にどこまで固執するのかと思えば自分から問い合わせるのも気が引けた。  昔から未練がましく、なかなか思い切った行動に出られないのは、二十歳を過ぎたいまでも変わっていないらしい。そんな自分を心底どうかと思っているのに、改善できないのがまた情けない。  木ノ本さんからのメールには、『俺もあのチームには籍がある』とも書かれていた。それが余計に俺を惑わせた。最初から知り合いがいるとなれば、「じゃあまぁ、やるだけやってみようかな」なんて考えも頭に浮かぶ。 「……とりあえずまだ保留」  暫く携帯画面を見詰めたまま立ち尽くしていたが、ディスプレイのライトが消えたことで我に返った。  深く息を吐くことで無理やり気持ちを切り替えて、手の中の携帯をテーブルへと戻す。八畳ほどの洋室ワンルームを後にして、向かった先は浴室だった。
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