1.好きなのは野球だから

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「て言うか、そもそもなんで俺なんですか」 「なんでって?」 「だから、俺以外にも野球好きな人はいくらでもいるし、実際外部のチームを探してる人もいるかもしれないじゃないですか」  何となく間が持たない心地がして、新たなグラスに手を添える。そこにミルクだけを入れて、ぐるぐるとぞんざいな手つきで掻き混ぜた。  すると横から笑み混じりの呼気が聞こえ、 「……そう言うことね」  木ノ本さんは独り言のように言って、意味ありげに笑みを深めた。 「何が可笑しいんですか」  なんだか居心地が悪い。俺は一口だけ飲んだグラスを天板に戻し、憮然と溜息を吐く。 「いや、ごめん。まぁ正直に言うと、単なる俺の独断ってとこだよ」 「独断……」  反芻するように呟くと、木ノ本さんはあっさり頷いた。  独断……独断って、いったいどう言う意味の独断なんだ。俺が訊いているのはそこなのに、解っていてはぐらかされている気もする。  堪え切れず、横目に木ノ本さんを見た。密やかに注視して、その真意を探ろうとする。しかし、やはり何も読み取れない。木ノ本さんは、ただ手の中のグラスを緩慢に揺らしながら、穏やかにそれを眺めているだけだった。 「だってどうせ入って貰うなら……少しでも戦力になる方がいいだろ?」  ややして木ノ本さんは揶揄めいた物言いでそう告げた。暗に俺の実力を買っていると、そう言ってくれているのは理解できた。  だが本当にそれだけだろうか。違う気がする。きっとこれには何か別の意味が――別の意図がある気がする。  木ノ本さんと接する機会が増えるたび、俺の中で妙なわだかまりが大きくなっていく。だけどその一方で、そこに触れてはいけない気もしている。だから納得するふりをする。そのまま受け入れるふりをする。  俺は浅い吐息をひとつ落として、「そうですか」とおざなりに頷いた。 「――て言うかね、本音を言うには場所が」 「え?」  再び手にしていたグラスを下ろす際、氷がカランと音を立てた。それに紛れて聞き逃した声を問い返すが、 「そうだなぁ、君に時間があるなら、ちょっと買物にでも付き合ってくれないかな」  木ノ本さんは微かに首を振っただけで、次には笑って窓外を指差していた。
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