225人が本棚に入れています
本棚に追加
/67ページ
「まだ決めかねてる?」
「ええ、まぁ……」
夏休みに入り、やはり時間を持て余すことの多かった俺を、木ノ本さんはたびたび外へと連れ出すようになった。
木ノ本さんの車の助手席に乗り、向かう先は様々で、ある時は買物だったり、食事だったり、最近では海水浴に行ったりもした。全て二人きりで。
しかもそれは回数を重ねるたび頻度を増して、最近では〝暇さえあれば〟と言っていいくらいになっている。
「ああ、でももし返事を急ぐなら」
「急がない。言っただろ、二年くらいは余裕で待てるって」
「余裕なんて言いましたっけ……」
「あれ? 言ってなかった?」
赤信号に引っかかり、木ノ本さんは笑って俺を見た。自然と空気まで和らぐような穏やかな笑顔。
束の間俺も、その見慣れた光景にほっとして――、しかしその一方で、不意に胸につかえを感じた。
まただ、と思う。木ノ本さんと一緒にいると、時々こんな風になる。
胸の奥が微かに疼く。重なる澱が深みを増して行くような、心許ない気分になる。得体の知れないそれは今にも掴めそうで、その実いつも掴めない。
状況から言って、原因はきっと木ノ本さんにあるのだろうと思う。だけどどんなに考えてもそれ以上の答えは出ずに、今日もまたそこで終わってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!