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時刻は既に十九時近い。
六月ともなればそれなりの明度はあるものの、ゼミで忙しい学生も多いのだろう、ほとんど無いに等しい人気に対し、混在して置かれた自転車や原付の数は思いのほか多く、俺はその中に埋もれているはずの自分の愛車(バイク)を探して目を凝らした。
「えっと、確かこの辺……」
呟きながら、記憶を頼りにブロック間の通路を歩く。しかし、なかなか目的の車体は見つからない。
特に定位置が無いこともあり、自分でとめた場所を忘れてしまうことは時々あったが、それにしてもこうまで探し出せないことがあっただろうか。念の為、隣り合ったブロックも双方見てみたけれど、やはりどう言うわけかその姿は見当たらない。
そうしている間にも辺りはどんどん暗くなり、
「まさか盗難……?」
終には笑えない冗談が頭を過ぎり、俺は空笑いに頬を引き攣らせた。
「君が探してるのはこれじゃないの、加治(かじ)君――加治章平(しょうへい)君?」
そこに背後から声がかかった。
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