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俺は一瞬身を硬くした。ややして振り返ると、そこには一台の中型バイクに跨がる長身の男の影があった。
「これ、って……」
「これだよ」
思わず問い返すと、男は笑って自分の下を指差した。確かにそれは俺のバイクだった。
ああ、そうだ。そう言えばこのブロックには確かに人がいた。これから帰るところなのだろうと思えば気にも留めていなかったが、その所為ですっかり見落としていたらしい。
「……って言うか、何なんですか」
俺はしばし車体を見詰め、ややして片手で顔を覆った。
「何なんですかって? 単に君を待ってただけだけど」
いきなり名前を呼ばれたことも判断材料の一つになった。何より、聞けば聞くほど覚えのある声だった。
「木ノ本(きのもと)さん……アンタね」
あからさまな溜息を吐き、俺はゆっくり視線を上げる。
「待ってたって……それならもっと早く声かけてくださいよ。どうせとっくに気づいてたんでしょ」
顔を覆っていた手で軽く髪をかき上げ、咎めるように彼を見た。
「て言うか、少なくともそれに跨がって待つ必要はないですよね」
しかし彼は、そんな視線すら真っ直ぐに受け止め、まるで悪びれた風もなく微笑うだけ。
「それはまぁ、そうだけど。こうやって待つのがベストかなと」
「何がベストですか」
即答で切り捨てると、後は仕草だけでシートから降りるよう促した。
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