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「でもねぇ、実際妬けたよ。半月近く顔を見てなかったこともあったけど……君、あの子の前だとホント隙だらけ」
僅かに瞼を上げて垣間見ると、木ノ本さんは苦笑混じりにどこか物憂げな目をしていた。
「心から信頼しきって、どんな表情でも見せるし……何より彼には踏み込まれても怒らないんだよね」
俺が何も言わないでいると、木ノ本さんは勝手に続けた。独り言のように、呟くように。だが確実に俺に聞こえるように言っている。
「……反論しないね。要するにその点の自覚はあるってわけだ」
なんだか拗ねた子供のようだと思う。思えば心なしか口が尖っているようにも見えて、少し可愛く思えてきた。
かと言って、内容が内容なだけになんと言っていいかも分からず、俺は改めて寝たふりを決め込もうとした。
――が、
「……ちょっと。嘘でしょ、ホントに寝てるの? 寝てるなら寝てるって先に言ってよ」
結局そんな言いがかりをつけられては我慢もできない。
「――…っ」
込み上げた可笑しさを堪えきれず、喉奥でくぐもった笑いが漏れる。それに気付いた木ノ本さんが、驚いたように俺を見た。
「寝てるときに『寝てる』って宣言する方が無理な話だと思いますけど」
言って俺は更に肩を揺らした。すると予想通り木ノ本さんは絶句して、その様がまた余計に俺を笑わせた。
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