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木ノ本さんは大人しくシートを降りた。それを横目に、俺は肩から提げていた斜めがけのカバンを後ろに回し、ヘルメットに手をかける。
「それで、用件は何ですか。何か用があるから待ってたんでしょ」
「さすが、よく解ってるね」
木ノ本さんは小さく瞬き、どこか感心する風に肩を竦めた。それに俺は皮肉で返す。
「アンタを知ってもう三年目ですから」
「その言い方は……なんか意味深に聞こえるね」
「単に言葉通りですよ」
尚もふざけるような言い方に、あえて笑顔で皮肉を強調する。
「三年と言うと……ああ、そうか。加治君もやっとお酒の飲める年に?」
だがこの人はまるでお構いなしだ。俺は半眼で息を吐き、ひとまず真面目に訂正を入れた。
「今年の誕生日は過ぎたんで二十一ですよ」
「あれ、そうだっけ。それならそれで、ケーキでも買ってお祝いすればよかったな」
「結構です。って言うか、いまはそう言う話をしてんじゃないでしょ」
「はは、いや、そうだった。ごめんごめん」
懲りずに木ノ本さんはふわりと微笑む。
あぁ、これはもう何を言っても無駄だ。
そろそろ言い返す気力もなくなってきて、ただ呆れたとばかりにため息を重ねた。
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