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閉口を余儀なくされていると、ここぞとばかりに木ノ本さんは続けた。
「加治君、本当は高校までで野球はやめるつもりだったって言ってただろ。でも、結局サークルとは言え大学でも続けてる。多分それは今後も変わらないよ。寧ろできないってなると、きっと余計にやりたくなる」
木ノ本さんは、いつになく射抜くような眼差しを俺に向けた。
稀に見る真摯な面持ちに、思わずぎくりと心臓が跳ねる。だがそれも束の間で、すぐにいつもの飄々とした態度に戻る。そして掴みどころのない柔らかな笑みを口端に浮かべ、
「あ、何だったら大学を卒業してからでもいいよ」
本気とも冗談ともつかないような口調でさらりと言ってのけた。
「卒業してからでもいいって……」
反芻するように俺が呟くと、今度は顔を覗き込まれる。反射的に上体が退けば更に笑みを深められ、
「まぁそれだと約二年後のことになるけどね。それくらいなら俺も待てるし」
そのくせ次には踵を返し、あっさり背を向けられた。挙句、そのまま歩き出し、後は一度も振り返ること無く駐輪場を出て行ってしまう。
「だから……マジわけ解かんないですって」
俺がそう呟いたのは、その姿が完全に見えなくなってからだった。
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