#1 インディアンサマー

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 桜の胸で想いが膨らんでいく。幸生に伝えたいこと。訊ねたいこと。  もっともっと、話していたい。話が聞きたいという欲求。  どうしたら伝わるだろう。  そんなことを悩みながら、時間だけが迫ってくる。  ビルの角からバスが現れた。行先表示が桜の乗る系統を示している。  桜はそわそわと落ち着かなかったが、バスは桜の思いを裏切りどんどん近づいてくる。  停車する直前、桜が意を決して幸生に言った。 「ね、ね、こうして同じ映画で鉢合わせするんなら――この次から何を観るのか、教え合わない?」  唐突な申し出に、幸生はきょとんとした顔で桜を見返す。  バスのドアが開き、降車ドアからは乗客が降りている。  慌て気味に桜は言葉を綴る。 「そのほうが、感想とか話し合えるし、たのしいと思うんだけど……」  車内から運転手が「まもなく発車します」というアナウンスをする。促された桜は名残惜しそうに慌ててバスのステップを駆け上がる。  桜がステップを昇り終えた矢先、背中から幸生の返答が聞こえた。 「いいよ」  桜は振り返り、破顔した。はにかむような幸生が見上げていた。 「じゃ、また学校でな」  幸生の言葉に、桜が返した。 「また映画館で」  言い終えた瞬間、扉が閉まり、バスは発進した。  走りだしたバスの中で、桜は、車内の後方に進みながら、見送る幸生の姿を追い続ける。  幸生に向け、桜は小さく手を振った。  手のリズムに合わせ、心も踊っていた。 ――あ。   そういえば、あのときの注意の言葉、   どこから引用したのか、聞きそびれてしまった。   また、学校で訊いてみよう。   もう、いつでも彼と話せるから。
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