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「井崎くんっっ。次は何を観に行く予定? 日にちは?? 」
休み時間のチャイムが鳴ってすぐ、桜は窓際の幸生の席へ駆けていくと言葉をかけた。
シネコンで二度目の鉢合わせ以降、このところ桜は授業の合間に幸生と話し込むことが多くなった。
「まだ何に行くか決めてないけど、来週の木曜に行こうかな、って思ってる。今週末には何本か新作も公開するし」
「じゃあ……スケジュール、合わせても、いいかな」
「ああ、それなら荻野の観たいのにしていいよ」
幸生も同好の士を得て、まんざらでもないようだった。
幸生とは様々な話をした。好きな俳優、監督。好みの映画のジャンル。
幸生がほぼ毎週のように映画館に通い、年間に50本以上観賞していることも知った。
高校生になってからの今年は20本を観賞している桜も幸生の数には敵わなかった。それでも、桜も同年代からみれば相当多いのに。
「3年になったら、受験で、本数観れなくなるだろうから。だから、来年の2年のうちには劇場で1年100本観るのが目標」
それは、告白というより、宣言だった。
映画を無料動画配信で観て済ませているような他の生徒たちからみれば、無駄にお金を費やすただの莫迦に思えるだろう。
けれど、こと映画に関しては、桜も幸生も価値観を同じくしていた。
映画のことを何でも話し合える相手に、幸生も桜も飢えていた。
自分はいったいその100本のうち、何本付き合えるのだろう。
そう桜は思った。
桜も幸生も、“映画は映画館のスクリーンで観るもの”だという主義は共通していた。
「だって、映画って、あの暗い館内でスクリーンに映写されることを前提に作られてるだろ。それを家のモニタ画面や、寝転んでポテチ喰いながら観たら、作った人達に失礼だよな」
幸生の言葉に、桜も大いに同感だった。
――映画は、映画館でこそ、ほんとうの魅力が味わえる――
それは、かつて映画の楽しさを教えてくれた、桜の父の口癖でもあった。
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