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これほどまでに映画が好きな幸生に、桜は訊ねたことがある。
「どうして映研に入ってないの? うちのガッコ、ちゃんと映画研究会ってあるのに」
逆に幸生から質問が戻ってきた。
「じゃあ荻野は? なんでウチの映研入らないんだ?」
返答に窮する桜に、幸生が答えた。
「あすこは映画で自分語りしたがってる連中ばっかだから。俺は、作るんじゃなく、単に映画を愉しみたいの」
成程、と納得する桜だった。
毎回、すべて観る映画を合わせるわけではないが、お互いに観たいと思うものが一致したときはなるだけ日時を合わせ、映画館で一緒になるようにした。
最初のうちこそ離れた席で観賞していたが、
「どうせ一緒に観るんなら、隣同士で観たほうが良くないか」
という幸生からの提案もあり、並んだ座席をとるようになった。
自分たちは、他の観客からみたら、どう映っているのだろう。
高校生の恋人同士に見えるだろうか。
桜は、そんな想像を頭に浮かべるたびに、心ときめいた。
幸生はいつも桜の左側に座った。桜も、ただなんとなくそれが幸生の性に合っているのだろうと思い、特に意味も訊かずにこの並びがいつの間にか定着していった。
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