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(2)
「お母さんっ。きょうは少し帰り遅くなるから」
朝、家を出るときに、桜は台所で片付けをしている母に声をかけた。
「あら、桜ちゃん、また?」
洗った皿を棚に収めながら、チラリと桜の背中を確認すると、母が続けた。
「今日って、木曜よね。最近、木曜はいつも遅くなるのね。何か始めたの?」
「え? えっと、ね……く・クラブに入ったんだっ。それでね、その活動日が木曜なの。だから……」
「そうなんだ。どんな?」
「えっとぉぉ……そ・そう、映画愛好会って言うの」
「あまり遅くならないでね」
「はぁい」
これ以上の追求を避けるように、桜はそそくさと靴を履き、玄関を出た。
近頃は幸生の観ようとする映画が桜の嗜好にも合っていることが重なり、木曜の放課後に連れ立って映画館へ足を運ぶことが続いていた。
* * *
放課後を告げるチャイムが鳴ると、桜はいそいそとノートや教科書を片付け始め、作業が済むと幸生の席に目配せをした。
幸生も桜の視線に気付いたのか、アイ・コンタクトで応え、桜の席のほうへ近づいてきた。
「行こうか」
「うん」
二人は揃って校舎を後にした。
まだほとんどの生徒は帰路に着いていないのか、下駄箱にはぽつりぽつりと数人しか生徒が見受けられない。
少し風が冷たかったが、今の桜には気にならなかった。
「きょうのは18時開始だから、少し余裕で行けるな」
「先週は学校終わってからダッシュで行って、ギリギリだったもんね。あーゆう開始時間だと大変」
桜が溜息混じりに言った。
「そうだね」
幸生が微笑と共に応えた。
駅とは反対方向、ショッピング・モール方面へ行くバス停で待ちながら、桜は幸生の横顔を眺めた。
「どしたの?」
幸生が気配を感じ、桜に尋ねる。
「う・ううん。なんでもない」
桜の頬が紅く染まったことに、幸生は気付かない様子だった。
1年に100本観に行くとするなら、単純計算で週に2本ペースだ。
さすがに桜はそのペースに付き合うことはできなかったが、ふと気になっていた。
いったい、幸生はどうやってその本数をこなしているのだろう。
桜は、ちょっと興味を抱いた。
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