1人が本棚に入れています
本棚に追加
こんなルーティンを、幸生はずっと続けてたのだろうか。学校が撥ねてダッシュでバスに乗り、シネコンまでのモールのコンコースを駆け抜け、窓口で学生証を提示し、チケットをもぎってもらい……
そこまで努力して映画を観ることができるか、桜は自問して不安になった。
幸生は映画マニアどころか、映画中毒だ。
それとも、求道者か、殉教者。
桜には、そう思えた。
ショッピング・モール行きのバスに揺られながら、桜は気になっている疑問を素直に幸生にぶつけてみた。
「どうして木曜なの?」
吊り革を握りながら幸生が即答した。
「経験から、映画館がいちばん空いてるのが、木曜なんだ」
「なんで?」
「水曜はレディースデー、金・土・日は週末で混むだろ。きっと、その間に挟まれてるからじゃないかな」
なるほど、と桜は納得した。
同時に、そこまでして映画にのめり込む幸生に感心した。
バスがショッピング・モールに着く頃には、陽はすっかり西に傾き、シネコンの壁を朱に染めていた。
二人は並んでコンコースを劇場入口へと向かう。
冬の気配が辺りを覆い始めていたが、桜の心はほんわかと暖かだった。
最初のコメントを投稿しよう!