#2 はつ恋

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 モールに並ぶショップを順々に眺めながら、桜は思い出すままに会話を続けた。 「うちのお父さんもね、映画が大好きだったの」 「じゃあ、荻野が映画好きなのは、そのお父さんの影響?」 「うんっ。小さい頃は、いっぱいいっぱい映画館に連れてってくれた。今は事情があって、別々に住んでるんだけど」 「今も、会ってるの?」 「ときどき、ね。遠いから、年に何回かくらいだけど」  ちょっとだけ、嘘をついた。  本当は、父とはもう長いこと会ってはいない。  たぶん、今再会しても、お互い顔も判らないだろう。  長いコンコースの間、桜の話は途切れることがなかった。  映画よりも、こうして幸生と会話できることのほうが、桜には嬉しかった。 「お父さんが若い頃に観た映画をいろいろ教えてくれたなあ。あ、でもたぶん、今の井崎くんにはとっても敵わないけど」 「そんなこと、ないよ、たぶん」 「でも、きっと井崎くんとなら、話が弾むかもね」  幸生ととりとめもない会話を交わすことが、桜には心地良かった。 「お父さんが言うにはねー、若いころは300円で2本観れる映画館もあったんだって。」 「ああ、名画座だな、それ。さすがに300円じゃないけど、今も市内にひとつあるよ。たまに行く」 「ホント!? こんど連れてってほしいなァ」 「いいよ。一緒に行こうな」 「うんっ。約束」  自分のことを、もっともっと幸生に知って欲しい。  桜の心は、痛烈にそれを望み始めていた。  桜は、ちゃんと確認してみたかったが、切り出せないまま日々を過ごしてしまっていた。  そのうち、訊かなきゃ。近頃、毎日そう思う。 ――あたしたちって、   つき合ってる、ん、だ  よ       ね?   ……
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