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桜の両親が離婚したのは、もう8年も前のことだ。
幼い自分とは違って、もう分別もつく16歳。頭では理解してるつもりだが、そのたびに心がキュンとするのは、どうしてだろう。
桜が少し会話の流れを変える。桜が聞きたくないのももちろんだが、母もこれ以上『泰秀さん』と発音したくない様子だった。
「でね。その『名画座』っていうのが、市内にひとつあるんだって。クラスに、映画好きなコがいてね。そのコが言ってたの」
「へえー。映画館なんて、ショッピングモールのトコくらいしかないと思ってたわ、お母さん」
よし、うまく逸らした。不快なぬかるみにはまらずに済む。
桜は会心の心地だった。
さて、次のハードルに注力しなきゃ。
桜は、母を攻略するのが目的なのだ。
「でねでね、あの……
そのコが、その名画座に一緒に行こうって、行ってる ん だ け ど……
行っても、いい?」
ちょっとだけ、嘘をついた。
幸生と一緒に行く約束は、これからするのだ。
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