#2 はつ恋

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(4) もちろん、幸生とは「こんど行こうね」とは言い合った。 でも、それはあくまで口約束。 きちんと、何日の何時に、何を観に行くのか、なんてことはまだぜんぜん話し合ってもいない。 市内のその名画座まで行くとなると、私鉄を使って快速で小一時間、そこからJRに乗り換えて更に20分かかる。おまけに「二本立て」ということは、普通に考えても5時間は上映時間があるだろう。 バスで1本のアクセスのショッピング・モールと比べ、帰りは遅くなるのは確実だ。 曜日を気にしない幸生と違って、それだけ長丁場なら、日曜に行くようにするしかない。 母一人娘一人の家庭の荻野の家では、帰りが遅いと心配されるかもしれない。 だから、きちんとしておきたい、と思った。 「ねぇ~、行っても、い~い?」 桜は、猫が喉を鳴らすような甘え声で母にねだった。 「おとこのこ、でしょ?」 ――あ。   バレてる。 「桜も、そんな歳になったかぁ。ちゃんとしてくれるなら、許可するわ」  桜の気不味さを先んじて、母が続けた。  “ちゃんと”がどういう意味なのか解らなかったが、桜はこくりと頷いた。  母の承諾は得た。  さて、次は幸生とプランを相談しなきゃ。  でも、彼ならきっと、好みに合った映画をチョイスしてくれるだろう。  あんまりにも嬉しくなった桜は、聞いたばかりの幸生のアドレスにスマホからダイレクトメッセージを送った。  学校で顔を合わせるまで、待てなかった。 “名画座で、なにかいいのやってる? 今週か来週末くらいに、一緒に行かない?”  返信はすぐに戻ってきた。  それを見たとたん、桜の頬は桃色に染まっていった。  思わずスマホを胸に押し当てる。幸生にこの鼓動が聞こえてくれたら、と願う。  桜の心は、まだ行ったことのない名画座の客席へ飛んでいた。  左側に座る幸生の姿が思い浮かぶ。 ――日曜日が、待ち遠しい。   暗くなるまで、待てない。
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