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毎年、明神小学校にはサツマイモが送られてくる。初めに送られてきてから四十年経つという。送り主は不明だ。
「また今年も送られてきましたな。
おお、これは立派に肥えておる」
教頭が大量のサツマイモの一つを手にして笑顔だ。
だが、その表情はすぐに曇る。
「焼き芋にしたら、さぞ美味しかろうに……」
横にいる一年生の学年主任の教諭もまた苦い顔をしている。
「ご時世ですなあ」
二人は「よいしょ」と芋の入った箱を片付ける。その行先はごみ用の倉庫。
「子供達は喜ぶのに……」
教頭は呟く。
教頭はこの小学校の卒業生で、彼はかつて送られてきた焼き芋を食べた。
焼き芋を焼く作業も楽しかったし、美味しかった。
「嫌な世の中ですね」
学年主任の教諭もまた卒業生だった。
実は昨年から、焼き芋は子供達に提供されていない。
衛生上の問題があると保護者の一人が言ってきたのであった。
その保護者は賛同者を集い、焼き芋の提供をやめるよう求めた。
「焼き芋を焼くときに火傷をするかもしれない。
過剰な農薬を使用しているかもしれない。
どこの誰が作ったかわからない物を食べさせるのは危険だ」
彼らはそう主張した。
結局、彼らの主張に反論することはできずに提供は中止されたのであった。
教頭が驚いたのは教師の中にも反対する者がいたことだ。
「何かあったら責任はとれません。
戦時中じゃあるまいし、もっと旨いものがありますよ。
授業を潰す必要があるのですか?」
明らかに手間を面倒くさがっての言動にしか見えなかった。
「子供達。喜んでくれるかな。今年の出来は良かったし、甘いぞ」
老人は畑で焼き芋を頬張りながら、微笑む。
老人の広い畑は、ほとんどがサツマイモ畑だ。
かつて、その老人は明神小学校の近くに住んでいた。小学校には圃場があり、そこには学童の手によってサツマイモが育てられていた。
貧乏であった少年は、そのサツマイモを盗んで食した。旨かった。
翌日、小学校から学童たちの泣き声が聞こえた。
「わーん! 芋が盗られちゃったよ~!」
その声が未だに老人の耳から離れない。
そして贖罪の意味を込めて芋を送り続けている。
その芋はもう子供達に届かないことも知らずに……。
…嫌な世の中になったものだ…
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