第1章

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 「山之内晴彦さんですか?」  施設から脱走した入居者がご遺体となって発見されたと警察から通報があり私は驚きました。 通常であれば施設内には階段とエレベーターは四桁のナンバーを入力しないと開錠しなくてはならず、暗証番号を知らない方は開けられないのですが、他の入居者の家族や業者が誤って善意で中に入れてしまう事もあるんです。  「ええ。此方の施設におられると聞いたんすけど」  離島と言う刑事が調書を片手に訊ねてこられました。  「確かにそうですが、こういった施設に入所されている方の中には、金銭の管理をしたがる方もおられます」  「山之内さんもそう言うタイプだったと?」  「はい。然し施設では金銭トラブルを避ける為に、事務所で金銭をお預かりする事にしています。ですが通帳までお預かりするような事はしません」  山之内さんがご遺体となって発見された場所は銀行で、通帳を持っておられたとの事でした。  「ではどうして通帳を持っておられたんでしょうか」  一つだけ思い付く事があります。  「家族が面会に来られた時に、居室に忘れて帰られた可能性があります」  「山之内さんは、それを使ってお金を引き出そうとしていたと?」  離島刑事はテーブルの珈琲を一口啜りながら仰られました。  「若しくは返しに行かれたのかも」
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