僕は恋をすることが出来ない。

3/14
前へ
/241ページ
次へ
 風が冷たい。 「今日はありがとう」  無言のまま駅に着き、別れの挨拶のように僕は言った。  言葉だけの感謝。  僕は、いったい何に感謝しているのだろうか。 「あの、上谷さん、もし良かったら、また、その……」  そこまで言って言葉を飲み込んだ彼女の声に、僕は軽い笑みで返す。 「また、ね」 「う、うん、また」  まだ何か言いそうな声を後ろにして、僕は歩いた。  僕が改札を抜けるまで、彼女は僕の後ろをずっと見送っていたと思う。  一体どうしたら良いのだろうかと、電車に揺られながら考えている。  僕の心はひどく落ち込んでいて、寂しさがずっと渦を巻いていた。  罪悪感だ。  ポケットのスマートフォンがメッセージの通知をバイブレーションで伝える。  見なくても分かっていたが、僕は画面を確認した。 『上谷さん、今日は忙しかったのに会ってくれてありがとうございました。 あまり話せなかったけど、すごく楽しかったです。 もし良かったら、また遊んであげてください』 「ごめん」  僕は小さく声に出した。  電車の中の、知らない顔の人々には聞こえない音量で。  僕は女の子を好きになることが出来ない。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加