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風が冷たい。
「今日はありがとう」
無言のまま駅に着き、別れの挨拶のように僕は言った。
言葉だけの感謝。
僕は、いったい何に感謝しているのだろうか。
「あの、上谷さん、もし良かったら、また、その……」
そこまで言って言葉を飲み込んだ彼女の声に、僕は軽い笑みで返す。
「また、ね」
「う、うん、また」
まだ何か言いそうな声を後ろにして、僕は歩いた。
僕が改札を抜けるまで、彼女は僕の後ろをずっと見送っていたと思う。
一体どうしたら良いのだろうかと、電車に揺られながら考えている。
僕の心はひどく落ち込んでいて、寂しさがずっと渦を巻いていた。
罪悪感だ。
ポケットのスマートフォンがメッセージの通知をバイブレーションで伝える。
見なくても分かっていたが、僕は画面を確認した。
『上谷さん、今日は忙しかったのに会ってくれてありがとうございました。
あまり話せなかったけど、すごく楽しかったです。
もし良かったら、また遊んであげてください』
「ごめん」
僕は小さく声に出した。
電車の中の、知らない顔の人々には聞こえない音量で。
僕は女の子を好きになることが出来ない。
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