第1章

2/2
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
『おはよ』 ただそう言いたかった。 登校前の早朝に愛犬と散歩。 折り返した帰り道で元同級生とすれ違うが、目が合っても言葉は交わさない。 それがこの春からの習慣だった。 小学校では仲良しで、中学で距離ができて挨拶さえなくなり、高校は別々。 もう接点はないと思ったのに。 今朝もまた、彼の登校と私の散歩帰りが重なる。 すれ違う度、挨拶しようもできなくて、気まずいけれどすれ違わないのも寂しくて。 気付けば桃色の花は緑の葉になり、今や赤や黄に染まってる。 今朝も何も言えず溜め息が漏れた時、愛犬が吠えて足元の鳩が飛び上がった。 「きゃっ!」 「どうした!」 驚き叫べば、低くなった彼の声が響く。 お互い振り返って、見つめ合って。 大事でないとわかった彼が去ろうとするから私は叫んだ。 「またね!」 「……ああ」 彼の返事に私はスカートを翻して歩き出す。 明日こそあの言葉を言える気がした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!