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『おはよ』
ただそう言いたかった。
登校前の早朝に愛犬と散歩。
折り返した帰り道で元同級生とすれ違うが、目が合っても言葉は交わさない。
それがこの春からの習慣だった。
小学校では仲良しで、中学で距離ができて挨拶さえなくなり、高校は別々。
もう接点はないと思ったのに。
今朝もまた、彼の登校と私の散歩帰りが重なる。
すれ違う度、挨拶しようもできなくて、気まずいけれどすれ違わないのも寂しくて。
気付けば桃色の花は緑の葉になり、今や赤や黄に染まってる。
今朝も何も言えず溜め息が漏れた時、愛犬が吠えて足元の鳩が飛び上がった。
「きゃっ!」
「どうした!」
驚き叫べば、低くなった彼の声が響く。
お互い振り返って、見つめ合って。
大事でないとわかった彼が去ろうとするから私は叫んだ。
「またね!」
「……ああ」
彼の返事に私はスカートを翻して歩き出す。
明日こそあの言葉を言える気がした。
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