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水辺には何者の姿もなかった。
役人の男も人柱の女も、水神の気配ですら感じることはできなかった。
只、波一つなく静まった水面に、瓢箪が一つ浮かんでいるだけであった。
「人柱の女はどうしたかな」
「道中、少し入れ知恵しておいた。多分、賭けに勝ったんだ。彼女は、恐らく水神を零落させた」
西葦原までの道行きで、彫物の少女は、役人が携えていた得物と常に持っていた水入れ瓢箪に目をつけた。どうにかして、役人から瓢箪を手に入れろと水辺の人柱の女に囁いていたのだ。続けて、もし手に入れられたのならば、水神に勝負を挑めとも唆した。
瀬戸際、彼女は水に浸かりながらも、水神に向けて、必死に叫んだに違いなかった。
「この瓢箪を見事、水中に沈められたなら喜んであなたの供物となりましょう。けれど、もしも沈めることができなかったのなら。もう、あなたは神でも何者でもない」
、と。
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