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「でもホントに時間がもぅ……」
言い逃げする気満々でノブを回し、力を込めた。
ドアを開いてすぐ戸口に足を踏み込むつもりで動いていた私は、開かないドアに体重の移動を阻まれ、少しつんのめる。
ノブを回し損ねた?
もう一度、意識して動く限界までノブを回す。
そして、勢いよくドアを押す。
やはり開かなかった。
「何で」
つい独り言を漏らしながら、今度は左右にノブを回してみる。騒音を立てることで焦りを散らすように、乱暴に回してしまった。
ノブはスムーズだ。
問題はドアなのだ。もしかしてと引いたが、ピクリとも動かない。
ノブ同様に、ドアも前後に揺らしてみたが全くの無反応だった。
無反応?
このドアには少し遊びがあり、ノブを回さずに開けようとするとガタガタと揺れる。
それは、鍵をした状態でも同じ筈だ。
なのに何で、その音も揺れもないのだ。
もしかして……
「沖永さん? どうした?」
背中に、笹木さんが近づいてくる気配を感じる。
ドアが開かないのが霊現象だとしたら、彼女になんと言えば良いのだろうと、一気に焦燥が募った。
いや、しかし。
言わなくても良いか。別に、何も。
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