1.迫りくる突然の求愛

12/16
前へ
/313ページ
次へ
『若菜』  もう一度呼ばれる。  ドキドキしすぎて過呼吸になりそうだ。  荒くなっていた息遣いを遅れ馳せながら自覚して、恥ずかしさで更に呼吸が荒くなってくる。  彼が一歩踏み出したので、思わずまた一歩後退しかけ、開かずの扉に背を押し戻される。  焦りが走った。    ただ、その焦燥は一瞬で終わってしまう。 『若菜が好きなのは、私だろう?』  彼の一言に、私の意識全てがシャッフルされたからだ。 『若菜は、私が好きなのだろう?』  繰り返される台詞。  それ自体が十二分に頻脈誘発材なのに、それに合わせて上がってきた腕がより気になる。  彼の腕はとても細く、しかし華奢ではない。  その頼もしさ抜群な筋張った腕をつい目で追いながら、それが自分の顔の真横で留まったことを認識したのは、腕だけでなく顔が近づいた後だった。  彼はゆったりと、私がもたれている扉に左手をついて私に顔を寄せ、右手で私の左の眉をなぞる。  ごくり、と、私の咽が鳴った。  その振動は伝わったに違いなく、恥ずかしさに思わず俯いてしまう。  その私の顔の輪郭を確かめるようになぞりながら、彼は、じわじわと指先を下へ這わせていく。  彼の指先に、少しずつじっとりと力が加えられていくのが感じ取れた。
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加