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『脈、速いね。若菜の心臓は大丈夫?』
そう言いながら、彼の右手が、私の頬を下へ撫でながら顎へ、首へ、胸骨へとジリジリ下がってくる。
「あ、の。ちょっ」
さすがに、雰囲気で押し切られて胸を触られるのはどうだろうか。
そんなことされたら、何だか後戻りできなくなりそう、という、やはりどことなく的を外れた恐怖が身を締め付ける。
『若菜…』
「若菜ぁぁあッッ!!」
彼の魅惑の呼び声に大音量のダミ声が重なったことを認識するまでに、数秒かかってしまった。
彼の甘やかな毒に浸りきった状態で、全く訳の判らぬまま。
空気の変化を感じとる間もない程勢いよく後ろから押され、つまるところ私は、二種類の声どうこうより前に体を吹っ飛ばされていた。
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