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彼の腕の中は、考えていたよりずっとしっくりと肌に合った。そしてその事への戸惑いが想像以上に大きくて、また余計に戸惑う。
何かが私の中に入り込んで僅かに蠢いている気すらする。
その未確認外来物に神経を集中していたそのタイミングで、私の体は無理矢理起こされた。
彼との間に吹き抜ける風がヒヤリと肌を撫で、その冷たさが密着を指摘しているようで今更ながら顔が熱くなる。
私のそんな胸懐など知る由もなく、気に掛ける様子すらなく、迷いのない手が私の腕を鷲掴んでいた。
上体を起こされたその勢いのままに上へと引っ張られて立ち上がり、私は、考える間もなく走らされる。
「行くぞっ!」
強く握られた手の食い込みが痛い。それに、走り始めたその速さに早くもついていけず、足がもつれる。
それでも、不愉快ではなかった。
顔を確認しなくても判る、あーちゃんの声だ。
顔を上げると、どうしても開かなかったドアが全開しているのが見えた。
真咲が、ドアを支えている。心配そうな表情が申し訳ない。
そして、私の腕を引っ張っている人物にも目を向けた。
私と同じ背丈で華奢で頭が小さく、我が橘女学園独特の薄紫色膝丈セーラーが良く似合うツインテールの……
誰?
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