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「スゴいね。そんな事できるお坊さんがホントにいるんだねぇ」
「ぁあ。面白厳しいじいちゃんだったよ」
「……あーちゃんの大好きな先生なんだね。もうなかなか会えないの?」
「……この間、一周忌の法要だったんだ」
「ぁ……そ、っか。……ごめん」
中等部の先生かな程度の気持ちで会話を進めていた自分の浅はかな思い込みが痛い。
親しくしていた信頼する恩師が亡くなって、あーちゃんはどんな1年を過ごしてきただろう。
楽しげな表情の奥に秘められていた悲哀が如何程か、想像するのも辛かった。
あーちゃんの笑顔が緩やかになって淋しい色を帯びたその時に、どうしてもっと踏み込んで考えなかったのだろう。
「若菜っ」
合わせるべき焦点を見失っていた私の視線が、再びあーちゃんの顔へ向かう。
それを確認するように、一瞬真剣な表情で瞳の色を濃くした後、あーちゃんはまたニカッと笑った。
そして、いつの間にか離れていた私の左手をまた取って、速足で歩き始めた。
バス停を通り過ぎていく。
「あのっ、あーちゃん、バスは」
「若菜っ」
「なぁに?」
「じいちゃん先生、いる?」
「……何処に?」
「俺んとこに」
「えっ、ううん。いないよ」
「そっか」
イシシ、と声が漏れるように笑っている声が、前から流れてくる。
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