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「若菜。じいちゃん先生な、85歳だったんだ。死ぬ直前まで元気溌剌で、頭もシャキッとしてて、誰もが羨む大往生だった」
「……立派な方だったんだね」
「ははっ、カクシャクとした老人だった。親世代に言わせると、現役当時は厳しすぎて堅苦しかったって。でも俺には、遠慮ない言い方するけど、良く笑う、気の利く面白いじいちゃんでさ。ホントは退職してんのに、用務員として学校に来てくれてさ。
……可愛がってもらったんだ」
「……そか。素敵な先生だったんだね」
「じいちゃん、絶対、もうあの世に逝ってるから。絶対に悪霊なんかにならないから。絶対」
足を止めて振り返る、あーちゃん。
「でももし見えたら、俺に教えて。俺に任せて。若菜、俺から離れないで。……絶対」
あーちゃんの表情は、笑顔ではなく、しかし固く強張っている訳でもなかった。
ただ、強い光を放っていた。
小学5年生の春だったか。
私は一度、自分からあーちゃんの手を放している。
その頃私はオバケとの適度な距離感が掴めず、現実の人間関係も上手く築けないでいた。
奇怪な言動を繰り返す私に対する評価は『頭がオカシイのか性格が歪んでいるのか、もしくはそもそも人間として破綻している』的なもの。
バカにされ、気味悪がられ、遠巻きに直接に色んな形で悪口に晒されていた。
あーちゃんは、そんな私の唯一の友であり、私の世界における絶対的な指針だった。
そのあーちゃんの影に隠れるように佇むオバケが、私の目に映ったのだ。
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