1.迫りくる突然の求愛

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 そんな毎日を過ごしながら、5月半ば。  私は今日も朝から屋上だ。  初めての中間テストを控えた教室の喧騒がちょっと煩わしくて上がって来たのだけれど、湿気のない涼やかな風が、考えていた以上に心地良い。  青空の下、まったりと至福を味わい、経過を感じさせない時間をゆっくり咀嚼する。  テストへの焦りがないではないけれど、今まで勉強しなかった訳ではないし、上位を狙っている訳でもない。  大学まである私立校の強味とでも言うのか、定期テストに振り回されない穏やかな雰囲気は全体的に漂っている。生徒の半数くらいは単なるイベント程度の認識であり、中等部からここに通っている私には馴染んだ空気だった。  そこに、 「沖永さん」 全く予期しなかった声を唐突に掛けられて、思わず起き上がってしまった。  錆び付いた蝶番の激しい摩擦音が一緒に響いたせいかもしれない。 「おはよっ、沖永さん」 「お、はよう」  座ったままドアへと視線を向けると、遠慮なく開かれたドアから姿を現したのは、笹木さんだった。  ドアに小窓など付いていない。私の姿など確認できなかった筈なのに、ここにいるのが私でなかったらどうするつもりだったのだろう。
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