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そのオバケは、あーちゃんの体に隠れる弱々しい態度の小さな姿ながら、悪意のみを放つ強靭な眼光を真っ直ぐ私に向けていた。
私は、あーちゃんを、見捨ててしまった。
生じた軋轢は解消せず、そのまま、あーちゃんはお兄ちゃんと同じ私立の男子校へ、私は橘女学園へ進学。
中学三年間は、家が近いにも関わらずすれ違ったことさえなかった。
私たちの関係が再び親密になったのはここ2ヶ月のことだ。
「若菜っ!」
歩調はやはり速いまま、あーちゃんと繋がる左手が、グッと絞まる。
「俺は、昔のままの俺じゃない。若菜、俺が守るから。じいちゃんだけじゃなくて、誰であっても、何がいても」
あーちゃんの意気込みに胸が締め付けられる。
頑張るべきは他の誰でもない、私だ。
「……ん。ありがと。あーちゃん、今日も助けてくれたね。ありがとね」
「……へへっ」
はにかむあーちゃんの可愛らしさがくすぐったくて、同時に申し訳なくて。
笑う振りをして軽くまぶたを閉じる。
「そーそー。若菜、さっきはどうしたんだ?」
「……わかんない。私が入ろうとしたらドアが開かなかった」
「何かいたよな?」
「……あー、ぅん」
「ん?」
「……あ。ううん」
「どした?」
「顔馴染みのオバケでさ。いつも屋上にいるんだけど、今日は、いつもと様子が違ったの」
「嫌な兆候だな。どう違ったんだ?」
どう、って…… 。
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