2. 幼馴染みは出会い頭からオカシイ

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「これは、若菜の大事なもの?」  あーちゃんの声が、先刻よりも少し近くに聞こえる。 「んっ。とても」  顔を上げると、目の前であーちゃんがはにかんでいた。 「そか。良かった」  そしてにかっと笑う、いつもの表情へ。  それが、ひときわ明るく輝いて見えるのは、少女の装いだからだろうか。 「若菜。うちに寄っても良い?」 「え? どした?」 「若菜んちまで送っていきたいけど、さすがにこの格好じゃな」 「気付かれないんじゃない?」 「相手が香穂さんじゃ無理だよ」 「そ?」  香穂は勿論、私の母の名だ。 「そ。だから、寄ってこ。うち」 「別に、一人で帰れるよ」 「だめ」  ダメ、じゃなく。  駄目、な感じでもなく。  だめ、という言葉がふわりと舞うように横髪を撫でていって、それがくすぐったい。 「いこ」  また。  行こ、じゃない。  いこ、の、軽やかで実態のない煙のような、しかしほんのり甘く色付いた響きが、いつも通りのようで違う。  鼻先を掠める戸惑いに、少しだけときめいてしまう。  そんな、私の心に一筋残る薄い痕跡を一掃するように、もしくはより濃く深くえぐるように、がっしと手を繋ぐあーちゃん。  そして、にかっと笑って走り出す。 「次のバス停から乗ろ。行くぞ」   うんっ、と、あーちゃんに負けない元気な一歩を、私も踏み出した。
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