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いや、嫉妬というのはおかしな話だ。
彼女が彼とどうこうあった訳ではない。
と言うか、そもそも、彼女のいうオバケが彼のことかどうか。
彼のことなら幽霊と言った方がより適当であろうに、敢えて『オバケ』などという言葉を使うだろうか。
私がこれまで見てきた『オバケ』達は、大抵、人の形を為していない。大きさに差はあれど、“小学生男子が3分で仕上げた粘土作品”といった形態を持つものが大半だ。
そうでない場合も、動物の姿か、もしくは“想像上の生き物”と表現するに足る姿をしている。
“人っぽい”モノを含めたとしても、人型のオバケに出会うことは稀だった。
笹木さんが見るという“オバケ”は、果たして私が見ているオバケと同じものだろうか。
もしかしたら、彼が見えていないかもしれない。
……など自分を誤魔化す間にも、嫉妬は確実に膨らんでいく。
今までの、静かに幸せだった彼の存在も彼との時間も、途端に苦味を帯びてくる。
その違和感が悔しさを増した。
彼の隣にいるだけで良かったのに。
私が望んでいたのは、それだけだったのに。
そんな密やかな私の気持ちを、根本から汚されたような気がしてしまう。
「沖永さんっ、ちょっと待ちゃあっ」
まちゃあ?
笹木さんの圧迫感溢れる声音に圧されそうになりつつ立ち上がっていた私は、叫び声の内容に意識をさらわれる。
笹木さんて、方言使ってたっけ?
改めて思い返せば、ご丁寧に「お待ちなさい」と言うような人間はこの学園にはいない。『お嬢様学校』『(近隣地域における)御三家筆頭』という世間の評判に戸惑うほど、「待ちゃあ」でなければそぐわないような場だ。
そこに溶け込んでいたくらいだから、彼女もまたこの場に相応しい口調だったに違いない。
しかし、一対一対応させて改めて正面から比較すると、笹木さんには果てしなく合わなかった。
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