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「聞きたいことがあるんだってば」
「え、あ、ぁあ」
気にしている様子のない彼女の態度に、こちらの方が挙動不審になってしまう。
「えと。予鈴、鳴ったよね? 急がなきゃ」
「待ちゃーてっ!」
「ふはっ、っいや、あの。だって、テストがさ」
落ち着かなくては……落ち着こう、私。
「テスト。遅れちゃうから急ごう」
笹木さんから視線を逸らしながらも、穏やかな声を心掛ける。
そして私は、笹木さんの返事を待たずに歩き出した。
笹木さんは私の背中に尚も叫ぶ。
「葛城くんから言われたのっ!」
私は振り返らなかった。
でも、つい足が止まってしまう。
「葛城くんが、沖永さんに相談しろって。……ごめん」
「別、に。そんな」
別にそんな、謝るようなことではない。
私には全く関係のないコトだし。
そう考えながら、私は俯いていた。
葛城貴明、私が呼ぶところの『あーちゃん』は、私の幼馴染みだ。
『尾張高校のちっちゃい幼馴染み』。笹木さんが彼氏かと聞いた、あの、幼馴染みだった。
実際のところは彼氏でない。
笹木さんの口からあーちゃんの名前が出ても『世間て狭いなぁ』以上の感想はない、筈だ。
なのに、身の内の黒いモヤは広がる一方だった。
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