1.迫りくる突然の求愛

9/16
前へ
/313ページ
次へ
「聞きたいことがあるんだってば」 「え、あ、ぁあ」  気にしている様子のない彼女の態度に、こちらの方が挙動不審になってしまう。 「えと。予鈴、鳴ったよね? 急がなきゃ」 「待ちゃーてっ!」 「ふはっ、っいや、あの。だって、テストがさ」    落ち着かなくては……落ち着こう、私。 「テスト。遅れちゃうから急ごう」  笹木さんから視線を逸らしながらも、穏やかな声を心掛ける。  そして私は、笹木さんの返事を待たずに歩き出した。  笹木さんは私の背中に尚も叫ぶ。 「葛城(かつらぎ)くんから言われたのっ!」  私は振り返らなかった。  でも、つい足が止まってしまう。 「葛城くんが、沖永さんに相談しろって。……ごめん」 「別、に。そんな」  別にそんな、謝るようなことではない。  私には全く関係のないコトだし。  そう考えながら、私は俯いていた。  葛城(かつらぎ)貴明(たかあき)、私が呼ぶところの『あーちゃん』は、私の幼馴染みだ。  『尾張高校のちっちゃい幼馴染み』。笹木さんが彼氏かと聞いた、あの、幼馴染みだった。  実際のところは彼氏でない。  笹木さんの口からあーちゃんの名前が出ても『世間て狭いなぁ』以上の感想はない、筈だ。  なのに、身の内の黒いモヤは広がる一方だった。
/313ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加