矢印

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矢印

 昔から、人に勘がいいと言われてきた。  言われるたびに、そうかな? と曖昧に答えていたけれど、実は、物心ついた頃から俺にはずっとある記号が見えていたのだ。  それは、二つセットの矢印だった。  何かを選ばなくちゃならない場面に遭遇した時、目の前に二つの矢印が現れる。それの色が変わっていく。  片方は白、片方は黒。  Aの品とBの品、どちらか一つを選ばなければいけない。  Aさんの意見とBさんの意見、どっちを聞くべきか。  こういう時、白い矢印が向いた方を選べば、必ず結果は良好。逆に黒ならアウト。  人には見えないこの記号が、俺の色んなことを左右していると気づいた時から、当然のように白い矢印を選んできた。  さすがに、高額宝くじが当たるとか、そういう二択には遭遇しないけれど、ちょっとしたくじはたいてい当たるし、テストの選択問題もばっちり。食事のメニューですら、見知らぬ物でも矢印に従えば大当たり。  そんな便利な能力だけれど、時には迷うこともある。  たとえば、仲の良い友達の誘いと親の用事。前者が黒で後者が白。  この先のためには、どっちを選ぶべきかなんて一目瞭然だけれど、それでも気持ち的に矢印に逆らいたいことも何度となくあった。  その場面に、まさか今日出くわすとは。  久々のデートで映画に行き、帰りに、どこかで食事でもと繁華街をうろついていた。  何を食べようか。笑いながらそう語る声を突然の悲鳴が掻き消す。  叫びの方向に視線を向けると、まだ遠い位置だが、道の先に男の姿があった。  そいつが何かを振り回しながら走ってくる。間にいる通行人達が悲鳴を上げ、逃げたり倒れたりしている。  通り魔だ。逃げなければ殺される!  そう思い、咄嗟に彼女の腕を引いた。でもその体は動かない。どうやら目撃したものへの恐怖で足が竦んでしまっているようだ。  どうする?  そう思った瞬間、目の前に矢印が浮かんだ。  白は走ってくる通り魔から離れるよう、後方を差している。そして黒は、彼女の頭上で真下を向いていた。  これは。この二択は…。
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