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「ここ、クロードのおうち?」
「まあね、借りてるだけなんだけど」
予想通り、クロードはここで暮らしているようだった。部屋の規模からすると、大家族で暮らしている訳ではないようだ。せいぜい一人か二人で暮らすのが限界である。一人暮らしにしても、室内には小さなテーブルと木製の椅子が二つ、本棚とノートパソコン、大きめなベッドにクローゼット。他は生活に必要な最低限の物しか置いておらず、全体的に飾り気に乏しいため、どこか殺風景な印象を受けた。
しかし、もしもあの黒い怪物が頻繁に出ているのだとしたら、贅沢をしようという気にもなれないだろう。設備を整え、調度品で飾り立て、趣味に使う品を集めた所で、あの怪物が近所で暴れたら全てお釈迦になってしまう。そう考えると、この簡素な調度・内装も仕方の無い事かもしれない。
あの黒い獣――皇獣(オウジュウ)は、四年前の皇樹事変と呼ばれる事件より更に数年前から、世界中に現れ始めたのだそうだ。皇獣には多様な種類が確認されているが、気性が荒く、巨大で、奇形的な姿をしているものが多いという。体色や体毛は一様に、墨を流したかのような漆黒であるらしい。
そこから連想されるのは、先程工業区画の施設で大量に遭遇した、三つ首の巨犬だ。黒くて、大きくて、凶暴で、異形。なるほど、あのような物が街中に溢れ返れば、とんでもない大惨事になる。いや、実際に大惨事は幾度となく引き起こされたのだろう。
とはいえ、事件から四年も経っているので、何らかの対策が出来ているようだ。住人達の落ち着きぶりは、そういう事であるらしかった。
それにしても、皇樹に皇獣。あの異形の存在はどこから現れ、そしてどのように対処されたのだろうか。
「皇樹に関しては、皇樹の核となる部分に鎮静剤をを打ち込んで、何とか黙らせたんだ。以来、皇樹は急激な成長を止めたどころかあのサイズまで縮小し、休眠状態なんだけど、枯れてる訳じゃないって話だね」
「きゅーみん?」
「寝てる、って事さ。大きくて邪魔だけど、もうその根が街を飲み込む事は無いし、あそこから皇獣が湧き出す事もなくなった」
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