1.起動

2/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
 ――誰かの呼び声が聞こえる。  その声は酷く懐かしく、しかし、彼女はごく最近にも聞いたようにも感じた。だというのに、声の主は判然としない。声質はおろか、近くに居るのか遠くに居るのか、それすらもよく分からないのである。  辺りは夜をぶちまけたような闇が広がるばかり。足元すら見えない暗がりの中、不安になった彼女は近くに誰か居ないものかと、慌てて周囲を見渡した。 「――――……!」  また、例の声がどこからか響いてくる。相変わらず、どれだけ耳を澄ましても、声の主に思い当たる節は無い。声の調子も分からないにも関わらず、誰かの声からは焦りのような物が感じられた。  それに伴い、彼女が感じる焦燥も加速していくような錯覚に陥る。けれど声は彼女に近付いてくる事はなく、少し離れた所を彷徨っているようだ。 「――だ……ミ!」  このままでは、誰かさんとはずっと会えない気がして、彼女はまとわりつくような闇の中をゆっくりと進んでいった。一歩進む毎に、誰かの声は近付いてきているような気がする。  そう、彼女はいつも、一人ではなかった。過保護すぎるくらい彼女を気にしてくれていた――が隣に居ないだけで、こんなに不安になるものなのだろうか。  だから、何処の誰だかは分からないけれど、自分を呼ぶ声の主と一刻も早く合流したくて、彼女は次第に早足になっていく。 「……だ、ス――……を……くれ!」  声は近い。あと少し進めば、見知った誰かが笑顔で迎えてくれるような気がして、彼女は暗闇の中で既に小走りになっていた。  転ぶかもしれないなどとは思わないし、転んで擦りむいても構わないとさえ思う。彼女にとってそんな些細な事よりも、このまま誰にも会えず、何も無いここで永遠を過ごす事の方が、余程恐ろしい事だからだ。  そして、墨を流したかのような黒の中を駆け抜けた彼女は、その先に光と、それとは別に文字のようなものを視界の端に見た気がした。 【 lang……ge :J……ane…… 】 【……化……了】 【……開始】 【同……...0. 01%】 【…………】 【危……の増大を確認……ラス:B】 【緊急措置を実行します】 【Eコアを活性】 【システム、再起動します】
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!