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皇樹や皇獣は、そういった特異な環境内において最先端技術の暴走によって引き起こされた、一種の人災なのかもしれない。
「でもまあ、皇獣は普通の動物が変異したものらしいから、あまり無暗やたらと退治しちゃうのは良くないらしいんだけどね」
クロードの言葉に、先程の巨獣を思い出す。あれも、元は飼い犬か野良犬であったのだろうか。だとしたら、過剰に数を減らしすぎると、生態系を狂わせてしまうかもしれない、という事だ。
あれが真っ当な食物連鎖に組み込まれている生物なのかどうかは分らないが、安易に絶滅させていいのかと問われれば、スミには分からないと答えるしかない。少なくとも、人間を襲う前に全て駆除してしまえというのは、いささか乱暴な気がする。野生の熊も、人里に下りて来なければ銃で撃たれる事も無い、という訳だ。
「とまあ、この街についてこんな感じかな。他に気になる事はある?」
一息ついたクロードは席を立ち、ダイニングキッチンへと向かう。彼の背中を見ながら、スミは朧気な記憶から来る二つの疑問について考える事にした。
片方はやはり、あの施設についてである。氷と水を入れたグラスを持って戻ってきたクロードからそれを受け取ると、スミは一気にあおった。喉を潤すよく冷えた水が、とても気持ちいい。
気分を一新した所で、スミはあの施設について尋ねてみる。
「ねえ、クロード。スミ、なんであのへやにいたの?」
あの部屋。犬型の皇獣に襲われた、扉の無い部屋。地下から皇獣を閉じ込めたケージが次々とせり上がってきた、あの広い部屋。
部屋の外から中を観察できるような構造であった事を考えると、どう考えてもあそこは実験場のような場所だ。地下あるいは他の場所で調整されたものを、実際にあの広い部屋に上げて観察する為の場所。
しかし部屋の外、ガラス窓の向こうには、誰も居なかったように思えた。つまりスミは、誰かに閉じ込められた訳ではないらしい。天井に穴が空いていた以上、彼女はあそこから入ったのだろう。クロードが飛び降りてきた時に破砕音は聞こえなかったので、あの穴は最初から空いていたか、あるいは彼女が自力で空けたのか。どちらにせよ、自らの意志で飛び込んだと考えるのが妥当な線だ。
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