3.安息

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 美味そうな食事を目の当たりにした彼女は、既に昨日の不機嫌さをすっかり忘れ去ってしまっているようで、クロードの言葉へ素直に従う。ダイニングのテーブル上に散らかってる本をテキパキと積み上げると、スミは駆け足で廊下を抜けて、彼女が眠っていた部屋へと運んでいった。  どうやら彼女が眠ってしまった後、クロードは読書をしていたらしい。本のジャンルは週刊雑誌や料理の本から始まり、地理、歴史、語学、数学、物理、化学、護身術の入門書や兵法の指南書、プログラミングの教本や遺伝子工学関係の専門書、更には見るからに偽物臭い魔術書やら新興宗教が発行したと思しき聖書の写本やら、ラインナップはカオスそのものだ。読書家なのか勉強家なのかは知らないが、それにしたって雑食にも程がある。  ……しかし、宗教。強い意志というか、どこか使命感のような物すら彼の頑なさからは感じる気がするのだけれど、そんな人物でも神仏に頼りたくなったりするものなのだろうか。あるいは、そういった意思は何かしら心の拠り所があってこそ、はじめて強固なものになるのだろうか。どうも彼のイメージには似合わない気がする。  しかし、皇樹が生え、皇獣が闊歩し、クロードのような半獣人すら日本に存在している事実すらスミには信じ難い事なので、カミサマのような物が実在しないとは彼女には断言できはしない。スミには施設でクロードに助けられる前の記憶が無く、彼女の持つわずかばかりの知識と常識は、必ずしも正しいとは限らないのだから。 「スミ? 朝食の準備ができたよ?」  しばらく物思いに耽っていると、廊下の向こうから聞こえてきた声が、スミの思考を中断させる。思案に耽っている内に、随分と時間が過ぎていたようだ。窓から差し込む陽の光は少しずつ強くなっており、今日も良い天気になりそうな気がする。外出するにはもってこいだ。 「うー! いまいく! ごはんー!」  彼女は元気一杯に返事をし、ダイニングキッチンへと急いだ。部屋を飛び出した勢いで、わざわざ運んできた本のタワーをひっくり返してしまったため、きっと後でクロードがそれを片付ける羽目になるだろう。しかし、目の前に食事をぶら下げられたスミにとっては些細な問題なのであった。いや、ちゃんと片付けなさいと、叱られたりはするかもしれないが。
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