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眼鏡をかけた、その男。
氷のような瞳で私を見る。
他の人に熱い瞳を見せるのに、どうして私には冷たい氷のような瞳しか見せないの?
その氷が解ける瞬間を、私は見たかった。
ただ、それだけなのにーーーー。
「陽菜子お嬢様、ワインはお飲みになられますか?」
食事をする陽菜子(ヒナコ)の横に立って、声をかけたのは代議士をしている父の秘書、周防 貴文(スオウタカフミ)
「……いいえ、結構です」
陽菜子は無愛想に、周防に返事をした。
綺麗に整えられた黒い髪。眼鏡を掛け、端正な顔立ちをした周防。
父の秘書を兼務しながら、この邸の執事的な役割をしている為、いつも、こうやって私の世話を甲斐甲斐しくする。
だが、周防の眼鏡の奥の瞳は、氷のような瞳で。
陽菜子は周防が苦手だった。
ーーー周防がこの邸にやってきたのは、陽菜子が高校3年生、卒業を間近に迎えた雪の降る日だった。
父が突然、周防を連れて来たのには、正直言うと驚いた。
数年前に母親を亡くしてから、父は別宅で愛人と過ごすことが多く、この邸には年老いた執事の中村と数人のメイドと陽菜子がいるだけ。
それなのに、父は周防を連れてきて、今日から周防がこの邸に住むのだと言った。
なんで、この男が………
眼鏡のレンズを通してを見る瞳はーーーまるで、氷のように冷たくて。
陽菜子は周防の視線がどうしても、好きになれなかった。
だから、大学2年になった今でも、陽菜子は周防とは必要な話だけしかしない。
いつまでも周防に慣れなかった。
だが、周防は、とても優秀だった。
公認会計士の資格を持ち、イギリスでバトラー養成学校に通った経歴を持つ周防は、年老いた執事の代わりに、この邸の管理や雑務を難なくとこなしていく。
そして、本来の仕事ーーー父親の秘書としての業務も完璧に務めるのだ。
そして陽菜子には
「私の務めは、可憐な花のような陽菜子お嬢様をお守りすることでございます」
そう告げて。
周防は陽菜子のスケジュール管理だけではなく、その日に着るものまでも、全てを管理していく。
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