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「何故? 私は周防が選んだ服じゃなくて、自分で服を選びたいの」
と、言っても周防は、陽菜子の要望に首を縦には振らない。
「陽菜子お嬢様が俗世間に惑わされない為に、私がコーディネートをしているのです」
「言っている意味が、わからないわ」
「お嬢様はいずれご結婚をされるお相手、まだ見ぬ婚約者様の為に貞淑に清らかなままお過ごしください。その為には流行など、俗世間に惑わされてはいけないのです」
流行の服は下品だと除外する周防は、良家のお嬢様を思わせる洋服のみを着るようにと言った。
大学の行き帰りも、運転手が送迎し、時には周防が同行する。
周防に管理される陽菜子には、行動の自由というものが、全く無いと言ってもいいぐらいだった。
「お父様! 周防は、厳しすぎますっ!」
陽菜子が、文句を言っても
「小学校から今の大学まで、ずっと女子校にいる陽菜子は世間知らずだ。だから、周防は陽菜子を心配して守ってくれているんだよ」
と、周防を信頼する父は、陽菜子の言葉に聞き耳を持たない。
確かに、陽菜子は生まれてから、20歳になる今日まで、交際をした男性はいなかった。
陽菜子自身も、高校生の頃は恋愛に憧れはあったが、誰かと付き合うなんて現実味がなく考えられなかった。
大学に進学すれば、そこは女子大でも彼氏がいる人も増えて。
そうなると、陽菜子も少なからず恋愛に興味を持った。
だが、今の陽菜子は周防の監視下にいる。
周防に監視されたまま、檻に閉じ込められて。
このまま出会いもなく、親の決めた男性と私は結婚してしまうかもしれない。
そう思うと、陽菜子は今の自分の人生が、とても虚しかった。
自分には未来がないーーーそんな気持ちになっていた。
20歳になってお酒を飲めるようになった陽菜子に周防がワインを勧められても、陽菜子は飲みたい気持ちにもならなかった。
それよりも、私は他の子のように、自由な生活が欲しい!恋愛がしたい!彼氏だって欲しいのよ!ーーーと、
周防の管理から逃げ出したいと思う気持ちは高まる一方で。
だけど、今の陽菜子は周防の監視下から逃れる術が全くなかった。
常に、周防は陽菜子の側にいる。
結局、私は諦めるしかないんだわーーーと、
ため息をつく陽菜子。
そんな陽菜子を、周防は氷のような瞳で見つめ続けていた。
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