勇者レベル99

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 翌日、俺達は北へと歩を進めた。この辺りは大きな森が広がっていて、昼間だというのに不気味に薄暗かった。前の場所よりも更に強い魔物が群れで現れた。巨大なドラゴン、トロル、オーガ、デーモン……これは狩り甲斐がありそうだ。再び狩りという名の修行が始まった。  修行、修行、修行、修行、修行、修行。俺達はあれから更に強くなった。はっきり言ってやり過ぎだ。もう充分過ぎる。それでも、誰もこの台詞を言うことはなかった。 「まだ魔王を倒しに行かないのか?」  と。しかし、戦士と女僧侶は修行と金集めに夢中で、特に気にしている素振りは無かった。魔法使いだけは何を考えているのか分からないが。そしてある時、俺は自分の強さの限界を悟った。頂点を極めたのだ。そういえば聞いたことがある。人間の最高到達点、それを「レベル99」というらしい。本能で分かった。俺はレベル99に到達したのだと。  俺だけじゃない。恐らく他の3人も既になっている。戦士は馬鹿だから気づいてないようだが。つまり、これ以上の魔物狩りはただ金が貯まるだけだ。しかし装備も既に完璧だ。金の使い道など、カジノぐらいしかない。それでも俺は魔王を倒す気にはなれなかった。それが何故なのか、あの時は分からなかったが、今ならはっきり分かる。  勇者は、魔王あっての勇者なのだ  魔王を倒せば、確かに俺は世界中の人々の英雄だ。宴やら凱旋やら、それはもう世界中がお祭り騒ぎになるに違いない。だが、その後はどうなる?戦士はその怪力でいくらでも力仕事にありつけよう。女僧侶はこの旅で新たに会得した回復魔法で稼ぎ放題。魔法使いの魔法も様々な場面で役に立てる。俺はそのどれもが中途半端だ。総合力では4人の中で最も強いのは俺なんだが、強いだけだ。平和な世の中でこの強さをどう生かせばいいのだ。もちろん、この世から悪が無くなることはないが、例えば盗賊団の討伐などは城の兵士達で事足りる。勇者はこの世界に必要なくなるのだ……。それに、心配事はそれだけじゃない。ここまで強くなってしまうと、逆にそれが……。いや、考えたくもない。 「どうした?寝付けんのか?」  魔法使いの声で、俺は回想から我に返った。たき火はもう消えかけていた。 「爺さん起きてたのか。いや、もう寝るさ。気にしないでくれ」
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