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とは言ったものの、そんなことは微塵も思っていなかった。最初は嵐のように感じた魔王の魔力の波動も、今ではそよ風程度にしか感じない。鼻くそをほじりながら戦っても、万が一にも雑魚に負けることなどあり得なかった。
案の定、女僧侶の回復魔法もほとんど使うこともなく、俺達は魔王の間へと辿り着いた。遂に終わるのだ……長かった旅が。そう思うと、さすがに少し緊張してきた。平民の俺が、もうすぐ世界を救うのだから。
「……大丈夫か?」
魔法使いだ。思えば、俺のことを一番気遣ってくれたのはいつもこの爺さんだったな。確かに不安はある。と言ってもそれは魔王に対してではなくその後の事に対してだが。
「当たり前さ。あっさりと片付けてやるよ」
不安を払拭するかのように、魔王の間に続く扉を蹴破った。これでもう後戻りは出来ない。
「来たか……勇者共め……」
いた。魔王だ。何だか凄く小さく感じる。こんな奴に世界は恐怖に陥れられていたのか。
「魔王よ、貴様の悪行もここまでだ。今こそ貴様に正義の鉄槌を下してやる」
えーと、こんな感じでいいのか?あまり慣れない言葉は使うもんじゃないな。まあいい、サクッと終わらせるか。そして、世界の命運をかけた戦いが幕を開けた。……というには、あまりにも一方的なリンチだった。
魔王の攻撃……戦士はビクともしない。
俺の攻撃……魔王の腕がもげた。
魔王が地獄の炎を吐いた……あったかいなぁ。
魔法使いの大火炎魔法……魔王はもだえ苦しんでいる。
女僧侶は後ろで暇そうにあくびをしている。
戦士の攻撃……魔王が血反吐を吐きながら吹っ飛んだ。
弱い、弱すぎる。これまた開始数分で既に魔王は虫の息だった。
「おのれ…こんな馬鹿な。この私が人間ごときに………うぅ」
「これで終わりだ魔王。地獄で悔やみな!」
剣を魔王の脳天から一閃。真っ二つになった魔王は断末魔の叫びをあげながら蒸発した。実にあっけない。さっきまでの戦いが嘘のように静かになった。終わった………。
「勝った!勝ったぞぉぉぉ!!うおおおお!!」
戦士が感極まって号泣して抱きついてきた。正直気色悪かったが、まあ今回だけは許してやるか。
「あー終わった終わった。さっさと帰りましょ。こんな辛気くさいところにいつまでもいたくないわ」
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