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 顎をはめ直した李白は阿遥の額に人差し指を押しつける。阿遥はその指を露骨に嫌そうな顔をしながら振り払った。 「誰のどこがまな板みたいな絶壁だって、あぁん?」 「貴様じゃ小娘。今のなんぞまぐれじゃ。わしが勝ったらその時こそ、賭けはどうする? この娘を晩酌の伴(とも)に一晩借りて良いとでも?」 「そうだな、好きにしろ。俺の知ったことか」 「若様、そんな!?」  目をまん丸にした阿遥を尻目に背を向ける辛悟。彼にしてみればたかが使用人のこと、気にするほどのことでもない。第一、既にお膳立ても済んだ対局だ。よもやここから挽回されることもなかろう。よってわざわざ心配する理由などなかったので、阿遥の声にも振り返ることもなくさっさと去って行ってしまった。 「いよーっしゃあ! それでは続きを始めよう。好きにして良いとは、つまりそう言う事じゃなぐぇへへへへ」  ニタニタと口元を歪め十人中の十二人が不快感を覚えそうな下卑た笑い声を上げる李白。取り残された、と言うよりは完全に置き去りにされた形となった阿遥は、唖然として辛悟の去った方向を見つめていたが、意を決したように椅子に座った。  その目には、悲哀と恥辱と憤怒と殺意を込めて。
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