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「さぁ、始めますよっ!!」
すれ違った犬連れの女の子が、小さな声でそういうのが聞こえた。振り返ってみると、何やら犬に向かって話しているらしい。
「………何やって」
「タネも仕掛けも無いんだからっ!!
行くわよチビ。One,Two!Three!!」
その瞬間、鳩が犬の背から勢いよく飛びだった。
誰も見ていない、恐らく練習しているのだろう。さぞかし正面から見たら不思議に見えただろう。
………しかし、残念かな。
「タネも仕掛けも丸見えじゃねぇか」
人がいることに気がつかなかった少女は、その言葉に気づいてしまう。女の子が振り返って視線が会う。
どうやら心臓の音にまで、『タネ』を仕掛けられたらしい。
ひときわ大きくなった心臓の音を押さえるために、学ランの会わせ目を俺は握りしめたのだった。
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