夏霧に濡らされて

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大きく深呼吸してスマホを耳にあてた。 短いコールから切り替わって響く声。そよぐ風が毛先を揺らした。 『もしもし…真亜子?』 「うん。さっきはごめんね…電話してくれたんでしょ?」 『宮原からも聞いたんだけど。今日、大変だったんだろ?心配したよ…真亜子』 慎ちゃんはいつだって優しい。 スン、と鼻を啜ると弱くて甘えたの私が顔を出す。 「慎ちゃぁん……」 側にいてくれなくても優しさに包んでくれる。 『ウン、辛かったね』 伸ばした足先を眺めて口元が緩むのを止められずにいた。 「慎ちゃん…もう自信無いよ…」 『真亜子、辛かったのなら我慢しないで… もっと俺に甘えていいんだよ。 そうだ。連休の初日はうちにおいで。二人でゆっくりしよう』 慎ちゃんの言葉は私をドロドロに甘やかす。 「いいの?ゴールデンウィークは前半は仕事でしょ?」 『昼過ぎには終わるよ』 「…何が食べたい?ママに言わなきゃ…」 『そうだなぁ。キンピラ牛蒡と…』 料理の苦手な私は慎ちゃんとのお家デートの日は、ママの作った品々を保存容器に入れて慎ちゃんちに行く。 『真亜子、泊まる?』 「慎ちゃん、パパに殺されちゃうよ…」 そうだねとスマホ越しに笑う慎ちゃんの吐息がくすぐったい。
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