逃げ出した君に捧ぐ

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僕は胸騒ぎを覚え、校庭に飛び出した。 今日は僕らの高校の文化祭で、校舎の中も外も、展示物や出し物に力を注ぐ生徒たちの熱気であふれている。 軽音のポップな音楽や、屋台の呼び込みの声が強引に誘ってくるが、僕の心はそれどころではなかった。 望月(もちづき)がいない。 そういえば彼女は昨日から不安げだった。 「もう、最後なのよね」と、秋色に染まる校庭を眺め、ため息ばかりついていたのだ。 そう、これは僕と望月だけにしか分からない不安なのだった。 こんなに急に指令が下るとは思っても見なかった。 僕ら二人はいつまでも、この学園で穏やかに過ごせると思っていたのだ。 けれど、上からの命令は絶対だった。 指令の後、僕がそっと触れた彼女の肩が震えていたことを、この指が覚えている。 望月は体育館の裏の、日の当たらない場所にひっそりとたたずんで、空を見上げていた。 その頬は、空の青を映しているように蒼白で、僕の胸が軋んだ。 「望月……。こんな所にいたのか。ほら、戻ろう。もう時間がないよ」 「山下君……。うん、分かってる。でも、やっぱり怖くて。だって………何の心の準備もできてないのよ」 望月は不安そうな目をしたが、それでも一生懸命笑おうと努力していた。 その姿が僕を辛くさせる。
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