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「わかった。君の不安を全部聞いてあげる。僕に全部吐き出しちまえよ。少しは気が楽になるかもしれない」
「山下君……。あのね……。わたしやっぱりどうしても納得できないの。わたしやあなたが、今までどれだけ尽くして来たと思う? ボスはそのことを何も分かっていないのよ。
そりゃあ、このところ能力の半分も発揮できなくなって、ボスにはかえって迷惑かけているかもしれないけど。でも……だからって……こんな仕打ち、酷いわ」
僕は優しく微笑むしかなかった。本当は叱る立場にあるのだろうけど。
「ボスっていうと、叱られるよ。主(あるじ)って呼べって、何回も言われてる」
「あなたは悔しくないの? 私だけじゃない、あなただって同じ目に遭うのよ? 斬り捨てられて、もう後は死ぬしかないのよ? 誰にも思い出してもらえず、醜く朽ち果てて消えていくだけなのよ? 誰にも悲しんでもらえないなんて、そんなのって……」
……なら、僕が悲しんであげる。
そう言いたかったが、そんな勝手な発言は、僕には許されていなかった。
僕に出来るのは、彼女が最後までその使命を全うするのを応援するだけなのだ。
「でも、僕らの死は死じゃない。そう主様に教わっただろ? 僕らのこの体が、また誰かの再生につながる」
「でも辛いじゃない、そんなの。見てよ私のこの体。もうこんなになっちゃった。だんだんと朽ちて行くのよ。少し前まではあんなに瑞々しかったのに」
「きれいだよ」
「……え?」
「今の君、とても綺麗だよ。きっと君の事を、みんなは忘れない。名前を思い出せなくても、きっと君の事を忘れない。
僕らの体は朽ちて行くけど、きっとこの世界の一つの潤いになる。希望になる。そう思ったら……少しは気持ちが軽くなると思わない?」
「……山下君」
「君を一人にしないよ。最後まで一緒に居てあげるから。さあ……行こう」
僕は彼女に手を差し出した。
完璧だと思った。もう何も怖がることないじゃないかと。
けれど、彼女は拒んだ。
「違うの! 思い出せないの」
「え? 何を?」
「私たちの体を蝕んで、この世界から切り離してしまう、無慈悲な物質の名前を!」
ああ! 僕はすべてを理解した。だから彼女はここまで逃げて来たのか!
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